名古屋大学 大学院工学研究科 佐藤一雄教授 インタビュー

MEMS用統合解析ソフトIntelliSuite -インタビュー

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名古屋大学 大学院工学研究科
マイクロ・ナノシステム工学専攻集積機械デバイスグループ
佐藤研究室(MEMS Laboratory)
佐藤 一雄 教授



長年日本のMEMS研究を牽引し、2012年3月に名古屋大学退官を控える佐藤一雄教授に、これまでのMEMS研究と今後の展望についてお話をお伺いしました。

インタビュー

先生がMEMSの研究を始めたきっかけについてお話しいただけますか?

1980年代のはじめ、米国の雑誌に、シリコンのマイクロ加工を応用した圧力、加速度センサの写真が載っているのをみて、実に美しいと思いました。 私は当時、企業の研究所で金属加工プロセス研究者として、精密塑性加工の研究で博士号をとったのですが、将来の研究展望に悩んでいた時代でした。 微細で美しい構造体が大量生産できるフォトリソグラフィ応用加工の可能性を、魅力的かつショッキングに感じました。 1983年から、調査研究を開始、研究グループを立ち上げました。 当時の企業の研究環境が、新分野への研究の方向転換を寛大に許してくれたのも、有難く感じています。

現在のMEMS業界の現状についてお話しいただけますか?

シリコンチップ上に展開される物理量センサは、すでにコモディティ(日用品)として身の回りにあふれてきました。 この分野では量産力、即応力、価格競争力などをもつ限られた企業だけにプレーヤーが限られてきました。 しかし、バイオメディカルなど、新規な分野では、まだまだ高付加価値の製品があらたに生み出され市場に出る余地があります。どこに事業を展開するのかの判断がこれまで以上に迫られる時代になってきました。 一方、大きく事業を進めている産業界も、微小なMEMSデバイスの機能や物理現象について、本質的な問題を把握しているとは思われません。 大学の研究者はその欠けている認識を補完するだけの知識、データベースを提供できるのでしょうか。 今こそ大学研究者はマイクロ・ナノ理工学を深めることが必要だと思います。

研究の成果の中で発見なされた成果をウェットエッチングシミュレータとして開発なされていますが、ウェットエッチングシミュレータを活用することで期待できる効果についてお話しいただけますか?

シリコンの結晶異方性エッチングで作られる形状として、単純な四角錘のくぼみ、片持ち梁、なら誰でもプロセスを設計できます。 私たちの研究室では、式田光宏准教授が中心になって、これまでに、特殊形状のプローブ顕微鏡チップ、薬剤経皮投与用のマイクロニードルアレイなど、高度な3次元形状のウェットエッチング加工プロセスを開発してきました。 機械的性質が優れたシリコン単結晶で、高度な3次元形状加工を実現するには、エッチング液の種類、濃度、添加物、補償マスク設計、多段化エッチング、ウェハ両面からのエッチング、機械的加工との組み合わせ、など様々な手段があるのですが、一般に十分に知られ、利用されているとは思えません。 このような挑戦的な形状加工を設計するのに、十分なデータベースでサポートされたエッチングシミュレータの存在は欠かせません。

先生の将来の夢をお聞かせいただけますでしょうか?

若手の研究者諸君が、マイクロ・ナノ理工学の研究をさらに深く、広く展開していくことを期待しています。私はそのお手伝いをすることができれば幸いです。 日本機械学会にマイクロ・ナノ工学部門を2012年4月から発足させるのも、そのような希望を持ってのことです。 皆様の新規ご入会、新規部門登録をお願いする次第です。 産業的には、MEMSハードウェアと情報技術の融合に、MEMSの将来を夢見ています。 スマートフォンに代表される個人用情報端末がすでに搭載しているMEMSデバイスの情報を利用すること、さらに、プラスアルファの高度な機能を持つMEMSデバイスが個人用情報端末に付け加えてネットワーク化すること、によってこれまでにない個人の健康生活に役立つシステムが生まれるだろうと期待しています。



今後も引き続き、佐藤教授の精力的な研究活動が期待出来るお話を伺うことが出来ました。 弊社も微力ながらご協力できれば幸いです。
今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

ありがとうございました。